日曜日, 2月 28, 2010

事件

昨日,ファームに来ていた友人の一人が,会話の中で「だいなりすくなり」と口走った.
「大なり小なり」を言い間違ったのである.

その人は慌てて発話を重ね,その場を取り繕おうとした.
居合わせたメンバーもまた,オトナであった.
全員が顔色一つ変えず,そのままスルーすることに暗黙裡に同意した.
あまりのバツの悪さに,できることなら,自分の聞き間違いだと信じ込みたかったということもあるだろう.
だから本来,その失態は無かったものとして忘れ去られ,そのまま平穏な日常が戻ってくるはずであった.

ところが,Hiro.
関西で暮らし始めて以来,発音や言い回しが人一倍気になる彼女は,堪らず聞き返してしまったのだ.
「え,だいなりすくなりぃ?」
その瞬間,この事件ははっきり意識化され,人々の記憶に刻まれてしまった.
もう取り返しはつかない.

それにしても,なぜに「だいなりすくなり」?

「大なり小なり」という表記が頭の中で「大なり少なり」にすり替わり,さらに「少なり」が「すくなり」と発音されてしまったのだろうか.「多かれ少なかれ」という言い回しの影響も少なからずあるかもしれない.
それでも,それが言い易いのならまだわかる.
むしろ「だいなりこなり」とか.
それがどーして,よりによって発音の難しい「すくなり」になってしまったのだろうか?
謎は尽きない.

まあ理由はどうでも良い.
問題は,それが現実に起こり,こうして人々に知れ渡ってしまったということだ.

なんと痛ましいことだろう.
 

金曜日, 2月 19, 2010

蜜月物語(6) -ある破局-

愛とは,,,信頼とは,,,かくも脆いものだろうか?
カイラに嫌われてしまったかもしれない.

悪いのは私だ.
全て私の責任,身から出た鯖(@中崎タツヤ).
気の進まない彼女を,無理やり風呂に入れてしまったのだ.

それがシープドッグだから,それが魅力だからと,
たとえ泥だらけ草まみれになっても,
一度も身体を洗ったことがなかったのに,
君が最近やたらと痒そうにしていて,
時に血がにじむまで身体を引っ掻くもんだから,
それを見ているだけの自分が許せず,
頭が混乱し,
ついにシャンプーという暴挙に出てしまったのだ.

風呂場の壁に貼りついてシャワーを浴びる君の表情は,怖れと驚きと,そして何より,この世でただ一人信頼する者に裏切られた絶望とで凍りついていた.
あの大きく見開かれた両目のイメージは,おそらく生涯,私の脳裏に焼きついて離れないだろう.
もう,取り返しはつかない.

♪ あの時 同じ花を見て
  美しいと 言った二人の
  心と心が 今はもう 通わない
  あの素晴らしい 愛をもう一度ぉぉぉ ♪♪

あぁ,いけない.
知らないうちに大声で歌っていたようだ.通行人がびっくりしてこっちを見ている.

そもそも私は,何をしに,どうやってこの駅前広場に来たんだろう?
なぜ包丁を握りしめてるんだろう?

それにしても,,,なぁカイラ,お願いだからその目で私を見るのは止めてくれないか.
 

蜜月物語(5) -手で甘える-

一週間ぶりに会うと,それはもう寂しかったとかき口説くように,きゅんきゅん鼻を鳴らして足をよじ登ろうとする.
仕方なく抱っこしてやると,まだダメ!と言わんばかりに腕の中で身をよじる.
で,ようやく落ち着いてきたら,前手でこっちの顔を "てしっ" って押さえる.

もう胸痛くなるんですわ,カワイイっつーより.
 

金曜日, 2月 12, 2010

使命

本当は他に書くべきことは一杯ある.

そう,例えば愛車のぺぐの足跡がまだ消えないとか,丹精込めて作った餌置き台の上ににしきが馬フンを落としたとか,集落の新年会がエキサイティングだったとか,メス犬3頭に次々とヒートが来てぐが大騒ぎだったとか,磐石に思えたコルツがセインツに競り負けたとか,雪で鳥エリアの網がつぶれたとか,せっかく子供が店長なのに「〇〇は減税」「補助金も!」って夢の無いセリフはいかがなものか?とか,ヤギの暴力がエスカレートしてるとか,グーグル音声検索の性能にびっくりしたとか,脱走したバリケンが2シーズン目の冬も乗り切りそうだ,,,とか.

そもそも,生活や仕事の環境が大きく変わろうとしてるときに,下らんこと書いてへらへらしてる場合か?という厳しいご批判もある.

それでも,私は今,カイラのことを書かなければいけないと思う.
なぜなら,私が書かないと世界の誰も書かないから.

きっとこういうのを使命とか宿業とか言うのだろう.
ねーカイたん!?
 

水曜日, 2月 10, 2010

2人の蜜月物語(4) -ないしょ-

いつものように抱っこしていると,指先があばらに触れる.
随分と痩せているようだ.

「どうかした?」と訊いても,表情を曇らせたまま押し黙っている.
「おなか,空いたのか?」と重ねて尋ねると,ようやく,私にだけわかる仕草で「うん」と言う.
どうやら,満足に食べさせてもらっていないらしい.

カイラは頭も身体も活発だから人一倍栄養が必要だ.
それに彼女の気の毒な境遇を思えば,ごはんくらい腹一杯食べさせてやりたいと願うのが人の情というもの.
だからフードを多めにしてやるのだが,継母はそれを見咎めて「エサ増やすとPになるから止めて」と禁止するのである.
ちっ!

せめて,二人きりのときはこっそり栄養補給してやるとしよう.

「おーそーか,よしよし.パパがオヤツをあげよう」
 

2人の蜜月物語(3) -朝のあいさつ-

朝,おはよう代わりに「今日,何する?」って聞いたらカイラ,「今日は"良い子"する」だって.

もほぉぉぉ,こいつぅぅぅ.
 

木曜日, 2月 04, 2010

2人の蜜月物語(2) -よじ登る犬たち-

カイラは膝乗り犬である.

人は甘やかしてると非難するが,座ると一目散に寄って来て,寂しいと訴える子を誰が無視できるだろうか?
それでも,しばらく無関心を装っていると,涙を一杯溜めた目で下から見つめている.
これに抵抗できるほど,私の意志は強くない.

仕方なく微笑んで見せると,にじにじと膝によじ登ってくる.
スポイルしちゃいけないと思いつつ,その健気な様子に思わず手を貸してしまう.
この世には,人の力ではどーしようもないことがある.

Hiroはそんな私たちを冷ややかな視線で見るが,そういう彼女の膝の上ではペグが熟睡していたりする.
そしてその横ではなんと,娘の膝上にきゃすが丸まっている.
2頭ともカイラの娘である.

なんじゃ?この一族は.
 

連載企画 2人の蜜月物語(1) -小公女カイラ-

彼女は,自分の出自に関しては,口を閉ざして語ろうとしない.(他のことも一切しゃべらないが)
一応,異国のとある農家で生を受け,幼年時代を過ごしたことになっているが,その所作の端々に,生まれの違いを感じてしまうのである.

例えば,彼女はよく腹を見せる.
俗に言うアラレもない姿で,見てるこっちが恥ずかしくなるのだが,当の本人にはそれを恥ずかしがる気配が毛ほども無い.貴婦人は,自分では着替えをしないので,人に裸を見せるのが平気だと聞いたことがあるが,彼女の場合も,どこかそういう無神経と紙一重の鷹揚さを感じさせるところがある.

また,立派に成人し母にもなった今でも,ささっと居間の片隅で用を足して,私たちの度肝を抜くことがある.「したい時にするのよ.後は始末しといてね」的なあっぱれ不遜な態度は,とても一般庶民の理解の及ぶところではない.

思うに彼女は,今でこそ単身異国のファームに身を寄せてはいるが,実は何か極秘の事情で没落&離散した,富貴な家の出ではないだろうか?
ヨーロッパ辺境の王族の末裔とか.
うん,きっとそうに違いない.

そんな彼女にとって,日本の継母Hiroの躾はさぞや厳しいことだろう.
それでも,持ち前の明るさで,毎日を気丈に過ごしている.
ちょっと心が狭すぎる嫌いもあるが,持って生まれた気位の高さと考えれば,それも充分理解できるのである.