日曜日, 11月 13, 2011

架空の動物の話

大きさは小さめの猫かモルモットくらい。
全身ふわふわの柔らかい毛に覆われていて、手足短く、ぱっと見単なる毛玉のようである。
名前を、仮にマルモクルとしておく。平均寿命約10年。

一番の特徴は、魂が高貴だということ。
あまりに高貴なので、世俗のことにはまったく興味が無く、したがって一生のほとんどを寝たままで過ごす。
もちろん、食事や排泄といった下世話なことはしない。
半覚半睡のまどろみの中で、ずっと、「世界で一番美しいもの」を夢見ている。もちろん、夢の内容など誰にもわからないが、それくらい寝姿が可憐だということだろう。
飼い主はその寝姿を眺めるだけで満足できるらしく、ペットとしても大人気である。

そのマルモクルが、一生に一度だけ目覚める時がある。
それがいつ来るかは、誰にもわからない。
ある日突然、独特の「キュッ」といううめき声とともに欠伸をし、短い四肢を思い切り伸ばす。
しばらく寝ぼけマナコで周りを見渡したりしているが、特に気を惹くものが無ければ、そのまま再び眠りについてしまい、もう二度と起きない。
その間、ほんの数十秒。
だから、一度も起きたところを見たことの無い飼い主が過半数を占める。

幸運にもその場に居合わせた人は、できるだけ覚醒時間を長引かせるよう、まさにこのときのために用意しておいた名前を連呼する。
「おはよう、ルディ、気分はどう?、ルディ、ルディ、元気そうだね、ルディ、私がママよ、、、」

そうやって語りかけて興味を惹きつけ、10分ほど起こしておくことができれば、再び眠りに落ちる直前、それまでに夢の中で作り上げた「世界で一番美しい」表情をしてみせるという。
これが、俗に言う「天使の顔」である。
それを見た人は、もうその場で死んでもいいと思うくらい、幸せな気持ちになれるという。

マルモクル、、、その生態は謎に包まれたままである。

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