金曜日, 5月 26, 2006

今日の箴言

唐突ですが,,,これ,良い文章だと思いません?

ギャンブラー兼作家の森巣博さんの文庫本あとがき.
人の暗黒面を嫌と言うほど見てきたであろう人のこういう言葉は力強い.


小さな世界を切り取り,その中で清浄な空気だけを吸っているのは,もはや不可能だ.
おそらく誰もがそう気付いていることだろう.
ところが現実に世界で起こりつつある事態は,まったくその逆であるように思える.より小さな世界を切り取り,清浄な空気だけを吸っていようとする.
自者と他者を分け隔てる壁を,もっと高くもっと巨大なものとしようと試みる.
怖いぞ怖いぞ,と煽れば,本当に怖い社会がやってくる.
それは歴史が,繰り返し証明してきた.

(中略)

マスコミは,人々が抱く原因不明で不可視の不安と恐怖に,いつわりで可視のはけ口を与え続ける.
バッシングの対象は目まぐるしく変わっても,目的は同一だ.他者を憎悪することによって,「われわれ」を統合すること.
いわゆる「憎悪の政治学」である.人間はそこまでバカなのだろうか?
わたしは,否,と答える.
それは,体験を通してわたしが導き出した個人的な解答だ.

(中略)

日本では,最近,無自覚なバカがとりわけ増えているように感じられる.
状態は,悪い. 
しかしわたしは,人間への信頼を失わない.人間に対する過剰な思い入れと言ってもいいのかもしれない.
わたしが日本を離れてから,三十余年が経過している.
博打を打ちながら,世界中を転々としてきた.
誤解を恐れずに書かせていただければ,人間はどこでも同じだったのである.
もちろん,異なる言語や習俗を持つ人間の集団があった.それでも,わたしは主張したい.人間はどこでも同じだったのだ,と.

(中略)

バカが居た.
聡明な人間が居た.
卑劣な奴も居る.
見ているだけで震えがきそうな雅致を持つ者も居た.
国境なんて,地球上に勝手に引かれた線である.
人種だって民族だって,西欧近代初期に抑圧する側が勝手に引いた境界線だった.
それがわかれば,人間は開かれる.
そして開かれた人間は,希望を捨てない.

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