日曜日, 9月 17, 2017

むしのはなし

捻転胃虫(ねんてんいちゅう)という、椎名誠や筒井康隆のSFに登場しそうな、ふざけた名前の虫がいる。

虫は虫でも、反芻する草食動物の第四胃に棲みつく寄生虫である。
名前の語感とは裏腹に結構怖いヤツで、繁殖力が強く母体の致死率も高い。
なぜ、寄生虫のくせに宿主まで殺めてしまうかというと、成虫が産卵のために盛んに吸血するため、重篤な貧血と、それに伴う臓器不全や衰弱をもたらすからだ。

ちなみに英語圏では、Barber pole(理髪店の縞々サインのこと)という、これまたこジャレた名前で呼ばれている。成虫の体表にらせん状の赤い縞が表れるからだ。
その正体は吸い取った血が透けて見えたもので、そうと知ってから写真を見るとかなりグロい。重症患畜の胃を切開すると、2cm程度の成虫が「うじゃうじゃ」と喰らいついているのが見えるんだそうだ。
げろげろ。

成虫が産んだ卵は宿主のフンとともに排出される。
濃厚感染の場合、その数はグラム当たり数千~数万個にも上る。
体外に出た卵は、適当な水分と温度(10度以上)があれば、3~7日で孵化する。
孵化した幼虫は熱や乾燥にも強く、草などに潜みながら再び宿主の体内に取り込まれるのを待つ。
胃に帰り着いた幼虫はすぐに成虫になり、2週間程度で繁殖を始める。
3~4週間という短い世代交代サイクルによって、早い増殖スピードと高い環境適応能力を有する。

「胃壁に喰らいつく」と聞くと、人間の場合アニサキスを思い出すけれど、あれは高々2~3匹で七転八倒の痛みを伴う。その伝で行くと、念転胃虫の痛みも相当ではないかと思うが、動物が辛抱強いのか、あるいは痛みは感じないのか、そんな素振りは見られない。
ただ、何となく覇気がなくなり、食欲が落ち、ちょっと具合悪いかな?と首を傾げていると、そのうち立てなくなって逝ってしまう。

もともと草食動物は我慢強い(弱みを見せると襲われる?)ので、目に見える症状が現れた頃にはかなり弱っている。「しばらく様子を見ましょう」とか「検査の結果を見てから」などと悠長なことを言っていると、すぐに手遅れになってしまう。

もっとも効果的とされる治療は、抗寄生虫薬(イベルメクチン)による駆虫だ。
手遅れでなければ(母体の回復力があれば)、病状は劇的に改善する。
ただし最近は、薬剤耐性を獲得する虫体も増えているらしい。また、動物によっても効き方がまちまちで、規定量の倍を投与しないと効かないケースもある。
投薬した、あるいは症状が改善したからといって、安心はできない。

実は、みわファームも開設当初に苦い思いをしている。
その後の駆虫プログラムが功を奏したのか、長らく事無きを得ていたのだが、今年、久しぶりに患畜を出してしまった。
メチャクチャ不快だった今年の長雨と高温が、幼虫たちには最適だったのかもしれない。
気候変動の影響を真っ先に受けるのは、たぶんこういった微生物の世界だ。

ところでこの記事を書いていて、捻転胃虫がアナグラムの宝庫だということを発見した。
年中移転、天然注意、中年転移、威年天誅、、、
「意中やねんて!」という惜しいのもある。
どうでもいいことだけれど、そうでもしてないとやりきれない、というのもある。


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